五月雨江と部屋を出ない審神者
睡姦もの。やや無理矢理な描写があります。
五月雨江がふと庭へ出ると、審神者が短刀らに囲まれていた。また子供らしい遊びに付き合っているようだ。その光景を眺めていると、短刀たちはかわるがわる審神者の手を握っては何かを確かめるようにしている。新しい遊びでも始まったのかと、五月雨江はそろりと彼等に近づいた。
「頭」
「うわっ!? さ、五月雨か、びっくりしたぁ……」
審神者は両手を乱藤四郎と握り合ったまま、音もなく背後に迫った五月雨江に驚いた様子で振り返った。
「なんの遊びをしているのですか」
「五月雨江さんも触ってみてよ! あるじさんの手、すっごく冷たい!」
「手、ですか?」
審神者の代わりに答えた乱藤四郎が握っていた審神者の手を離し、ごく自然な流れで五月雨江はその手を取った。
彼女の指の脇に自身の指を滑り込ませると、確かに氷のように冷え切っている。その下に血が通っているとは到底思えないほどだ。
いつかこの身で組み敷いた時は、全身が燃えるほどに熱かったというのに。五月雨江の脳裏には、幾度も回想した淫靡なあの光景があった。それを振り払い、平静を装って自身とは違う柔らかな感触を堪能する。
「確かに、冷たいです」
「そうかな……」
「血の巡りが悪いのですか」
「松井みたいなこと言うね。そんなことないと思うんだけど……」
どうやら短刀たちは、あまりにも冷たい審神者の指先を案じて温度を確かめたり、温めてやったりしていたらしかった。
居心地悪そうに五月雨江と目を合わそうとしない審神者が彼から逃れようとしたので、五月雨江はすかさず手を掴み直し自身の羽織の下、胸板へと押し付ける。
「どうですか?」
「どうって、な、なに」
「こうすれば温まるかと」
無邪気に審神者の身を案じる短刀に囲まれ、審神者は返事に窮していた。彼女より背の高い五月雨江だけが、その頬に朱が差していることに気が付いている。
あの日——試験と称して時の政府に閉じ込められた日から、審神者の態度は目に見えて変わった。
一介の臣下でしかなかった五月雨江を、今では別の色を含んだ視線で見つめる。彼にとっては願ってもないことで、その気になれば容易く籠絡してしまえるだろう。
しかし、五月雨江はあえて決定的な一歩を踏み込まず、彼女の惑わしげな表情を堪能していた。恋の花が芽吹いたならば、その蕾が開く過程すらも楽しみたい。
当たり障りのないお礼を言って話を変えようとする審神者を、五月雨江は満足げに見下ろした。自身をただの忠臣ではなく一人の男として意識し、それを自覚する度に罪悪感に苛まれるその表情を見るたびに、五月雨江は今まで感じたことのない高揚感に包まれた。
そんな出来事から、一週間も経たないある夜の事だった。
五月雨江は腹の上に何か重みを感じ目を覚ました。瞼を開くよりも早く本体を掴み、抜刀する。慌てた“何か”の声を聞いて、五月雨江はその動きをぴたりと止めた。管狐だ。不思議と隣で眠る村雲江は寝入ったままで、それは囁くように「五月雨江様、審神者様の部屋へお急ぎください」と言った。
五月雨江が審神者の部屋の前まで行くと、部屋の襖は開いていた。平素であれば、術をかけて審神者の意思がなければ開閉できないようにしているはずだ。それを目にしただけで、五月雨江は非常事態を察した。
寝室で布団に横たわる審神者は、死人のような青白い顔をしている。五月雨江は眉を顰め、管狐に状況説明を求めた。
「ここのところ、審神者の間で原因不明の奇病が流行しています。一時的に霊力が枯渇し、体調不良を引き起こすとのことです」
「頭は、今それに罹っているということですか」
「その通りです。いざという時の霊力供給の可否とその相手を調査するために、先日の試験が行われました」
「だから、私が呼ばれたと」
五月雨江は今一度審神者の方を見た。苦しげに歯を食いしばり、時々呻き声を上げる。額には、脂汗をかいていた。
「審神者様には一刻の猶予も残されておりません。どうか、ご決断を」
管狐はそう言い残し、その場から姿を消した。取り残された五月雨江は、白い頬に手を添える。あの時触れた指先と同じく、その肌は生きた人のものだと思えぬほどにひやりとしていた。
主を失うかもしれない、という恐怖が、五月雨江の喉を締め上げる。「頭」と呼んだ声は、自身でも驚くほどにか細いものだった。
「頭、返事をしてください」
そう問い掛けても、彼女は呻くばかりだ。五月雨江が彼女を呼ぶたびに恥ずかしそうに伏せられていた睫毛が、今は涙で濡れて震えている。
五月雨江はひたりと、恐る恐る唇を重ねた。かつて閉じ込められたあの部屋でそうしたように、霊力を少しずつ流し込む。
すると、少しばかり——すぐそばにいる五月雨江が僅かに感じ取れる程度に、その表情が緩和する。管狐の話は嘘ではなかったのだと確信した。
もはや、審神者が五月雨江に想いを寄せていることは確かめるまでもないことだ。五月雨江はそれを察してしまえるだけの鋭敏な洞察力を持ち合わせている。けれど、それでも死体のように口の聞けない彼女の身体を暴くことには躊躇いがあった。
再び唇に触れる。今度は、舌先を唇に割り入れて唾液を流し込んだ。
湿っぽい口付けをしばらく交わす。すると、審神者の荒々しい息がやや落ち着いた。しかし顔の血の気は失せたままで、このまま放っておけばまた彼女は苦しむことになるだろう。
指を絡めると、白いそれはいつか触れた時よりもずっと冷たい。氷のようなそれを温めるように、五月雨江は指先に口づけた。
それから口に含んで、丁寧に舌を絡めて舐め上げる。五月雨江の咥内で温められたのか、分けられた霊力のせいか、そうすると指先の冷えは少しばかりマシになった。
「——頭、申し訳ありません」
五月雨江は上半身を脱衣し、審神者に覆いかぶさって、彼女の寝間着の前を寛げた。
露になった首筋から胸元を辿るように、五月雨江は唇を寄せる。その感覚がくすぐったいのか、審神者は意識がないままに身を捩った。
体温を移すようにぴったりと肌を合わせながら、五月雨江は審神者を愛撫する。睡眠時にブラをつける習慣がないのか、キャミソールをたくし上げると、左右に肉が流れた胸が露出した。五月雨江はひとしれず唾液を飲み込んで、尖らせた舌の先端で乳首をつついた。
突起を揺するように舐めてやると、審神者の口から吐息交じりの声が上がる。目を覚ましたかと様子を伺ったが、いまだ眠りについたままのようだ。
審神者の手は快楽から逃れるように敷布団をかいている。ここまでして目を覚まさないものかと、五月雨江は自身がしていることを棚に上げてその無防備さを憂慮した。
「眠っているのに気持ちがいいのですか」
「んっ、う、……っ」
五月雨江の問いかけに彼女が答えるはずもなく、ただ愛撫に反応して無意識の喘ぎが出るばかりだ。
五月雨江は舌先での愛撫を続けながら、反対の乳頭の先っぽを爪でかりかりと小刻みに引っ搔いた。それが溜まらないらしく、審神者はびくっと痙攣して背中を浮かせる。それに気を良くした五月雨江は、執拗に胸への愛撫を続けた。
彼が胸から顔を上げた頃には、審神者の肌は熱っぽく桃色に染まっていた。
霊力供給はこれで十分なのだろうかと思案する。五月雨江の中の刀としての忠誠心と雄としての欲求が競り合って、葛藤していた。
無意識に開いたらしい審神者の足の付け根を見ると、漏らしたように寝間着が濡れている。五月雨江は腹の下が疼くのを感じて、熱い溜息を吐いた。
「…………れ、」
「頭?」
「さ、みだれ」
五月雨江ははっとして審神者の顔を見た。
瞼は降ろされたまま、薄く開いた唇からは唾液が顎を伝っている。頬はすっかり上気して赤く、そこに死の気配は感じられなかった。
これ以上五月雨江が彼女の身体を暴く必要はない。後処理を済ませ、何事もなかったかのように部屋を出て、すべてを忘れるべきだ。
頭ではわかっているというのに、その声を耳にして、五月雨江はすっかり思い止まることができなくなってしまった。日頃の弾んだ声色と今の淫らな光景が重なって、視界がちかちかと点滅する。
寝間着ごと下着を下すと、陰部はしっとりと湿っていた。
クロッチ部分にねばついた糸が引いている。眠ったまま胸をしゃぶられてこうも興奮していたのかと思うと、五月雨江はたまらない気持ちになった。
足をM字に開かせて、蜜口に指を差し入れた。濡れそぼったそこは易々と五月雨江の指を受け入れ、ぎゅうぎゅうと締め上げる。
「あッ……!」
腹の裏側を擦ると、露骨に艶っぽい声が上がった。審神者の手が敷布団に皺を作る。
「頭」
——なぜ、私の名を呼んだのですか。
「ッ、ん……あ、あッ……」
ぐちょぐちょと下品な音を立てて膣内を耕すと、どんどんと粘液が溢れてくる。五月雨江は指を二本に増やして、腹の裏を執拗に攻め立てた。
「あッ、あ、ッ……、っあ、う、っは……んっ」
手の動きを激しくすると腰が浮き上がり、審神者の声も大きくなる。反対の手でぷっくりと腫れた陰核をくにくにと責めてやれば、審神者はあっさり絶頂に達した。
「っあああ~~ッ……!!♡」
びくびくっと痙攣して、審神者の体がどしゃりと敷布団に崩れ落ちても、五月雨江はその手を止めなかった。派手な水音を立てながら激しい愛撫を続ける。
「ひぎッ……!? あ゛っ、あ、な、なん、なんでぇ……ッ!?」
「……頭?」
達した拍子に目を覚ましたのか、審神者は顔中体液まみれの顔を腕で拭っていた。
五月雨江は驚きながらも動きを休めず、審神者の膣内を責め立てる。それどころか逃れようとする腰を取り押さえるように、下腹、膀胱のあたりを掌で押した。
「や゛っ、これ、なっ、まっ、あ゛っ♡ 止め——っイっ、イぐ、やだっ、出るからっ、だめっ、ほんとにッ♡ あ゛っ、やだやだ、あ、出ちゃ、っっっ……!♡」
審神者は仰け反って絶頂しながら潮を吹いた。五月雨江の手どころか、寝間着に敷布団までびしゃびしゃに濡れている。内股を未だに余韻で震えさせ、情けなく足を開いていた。
「頭、申し訳ありません」
「やっ……うあぁ、っ、ぐすっ……」
彼女はとうとう泣き出して、顔を腕で覆った。五月雨江は審神者が見ていないのをいいことに、手についた雫を舐めとる。五月雨江はどうすればいいかわからず、彼女が落ち着くのをただ待った。
審神者の嗚咽が収まってきた頃、五月雨江は「体はつらくありませんか」と訊ねた。口に出してから自分が言うべきことではなかったと内省する。臣下に寝込みを襲われ潮を吹かされて、怒りと悲しみ、混乱でそれどころではないはずだ。自身が霊力欠乏症で苦しんでいたことすら自覚がなかった可能性もある。
しかし、意外にも審神者が次に口にしたのは謝罪だった。
「五月雨、ごめん……」
「なぜ、頭が謝るのですか。罰せられるべきは私では」
五月雨江は訳も分からず、眉尻を下げながら少しだけ審神者との距離を詰めた。
叱責される覚えはありこそすれ、謝られる道理はない。体液で汚れた顔は拭った摩擦で真っ赤になって痛々しいものだった。
「こんのすけにずっと言われてたの、霊力供給をしろって」
「……!」
「でも言えなかった。そしたらどんどん体がおかしくなっていって、それで……」
五月雨江にとっては青天の霹靂だったが、審神者は事前に知らされていたらしかった。
最初のうちは、あの部屋でこなしたような軽度の——性交渉に比べて、という意味だが——霊力供給で賄えたはずが、どんどん容体が悪くなるごとに深刻化していった。そんな状況になっても、彼女は五月雨江に霊力供給をしてくれだなんて言い出せなかった。無理もない、あの部屋での生娘らしい反応を見ていれば厳しいことは明らかだ。
「私が、こんなことになっちゃったから……五月雨に、ひどいことさせて」
「ひどいこと、ですか」
されているのはどちらだ、と五月雨江は思った。
当時は軽口のつもりだったが、あの部屋で性交渉を提案したときだってそうだ。彼女は、五月雨江に「自分を大切にして」と言った。彼が思っている以上に、審神者は五月雨江をはじめとした刀剣男士らの身を案じているようだ。それにしたって、この状況で言うことではないのは明らかだった。
もしも五月雨江以外の刀がこの役目を果たしていたとしたら? この本丸の刀は審神者によく似て善良な者が多いが、奸計企むに長けた者もいる。任務の中で、目的のためなら手段を選ばないのは、五月雨江も同じだ。そんな悪い考えが、彼女に向けられたとしたら。
五月雨江は己にその片鱗があるからこそ、その状況を憂いた。霊力供給を〝させた〟ことへの罪悪感を膨れ上がらせ、言い包め、手籠めにされる。それが、容易く行える状況にあった。
「いいえ。私は——私の意志で、ここへ来て頭へ無体を強いました。貴方を守るべき兵でありながら、醜悪にも貴方に恋をし、欲を抑えきれず、強姦したのです」
「さみ、」
「私が恐ろしいなら、どうか今すぐこの部屋を出て他の者を呼び、私を折ってください」
審神者は瞠目したまま動かなかった。
五月雨江が腕を伸ばし、彼女の肩を掴んで敷布団へと押し付ける。そのまま丸い顎を指先で掬って乱暴に口づけた。
全体重をかけて圧し掛かっておきながら、五月雨江は「少しは抵抗してはどうですか」と訊ねる。刀剣男士にそうされれば、男であろうと逃れることは難しいとわかっているのに。
五月雨江が片手で蜜口に触れると、そこはまだ愛液を滴らせていた。散々達したせいで、やや乱暴に挿入された彼の指二本を容易く受け入れる。出し入れすれば、審神者は下唇を噛んで喘ぎ声を堪えた。
「先ほどは散々いやらしい声を聞かせてくれたでしょう」
「っ、……! ふ、ッ……んっ」
いやいやと審神者は頭を振った。陰核を責めれば声が漏れ、ぎゅっときつく目を閉じる。快楽を拾いやすい体になっているらしく、責め立てればすぐにまた絶頂した。
肩で息をする彼女を見下ろしながら、五月雨江は男性器を取り出して自らの手で上下に擦った。荒い息の漏れる口を両手で抑える審神者の足を持ち上げ、蜜口に宛がうとそのまま腰を進める。狭い膣内はぎゅうぎゅう五月雨江の性器を締め上げて、彼は眉間に皺を寄せた。
「っい……!」
「痛いですか」
五月雨江の問いに審神者は答えない。嫌だのやめてだの言えばいいのに、頑なに口を閉ざしたままだ。五月雨江が腰を動かすたび、呻き声はどんどん艶のある喘ぎ声へと変わっていった。
二人の吐息と、肉がぶつかる音が部屋に響く。激しく奥を突いてやるよりは、手前をゆっくり亀頭で抉るみたいに擦る方が感じるらしかった。五月雨江にとってはやや物足りない速度で抽送を続ける。
軽く達する度にぎゅっと中が締まるのがたまらなく気持ちよく、愛おしく感じた。好いた女との交合はこうも心身が満たされるものかと感動する。自らが犯した罪も主従の関係性も忘れて、五月雨江は今だけその快感に溺れた。
「頭、気持ちいいです……ずっと、こうしたかった」
「っは、ッ……っく、ん、ッ……♡」
「お慕いしております、……どうか、私のことを許さないでください」
五月雨江は深く腰を抱え込むと、激しく奥を突いた。軽い審神者の身体は容易く浮き上がり、蜜壺が男性器を扱く。
ややあって五月雨江は審神者の膣内に吐精した。彼の霊力が馴染んだ体は、触れているだけでどこもかしこも気持ちがいい。五月雨江は触れ合えるだけの肌を引っ付けながら、ぐったりとした審神者の唇を貪った。
事後、五月雨江は痕跡を残さず部屋を出た。
これからどうなるのかはわからない。が、罰を受けることは間違いないだろう。逃れるつもりはない。あれだけのことをしたのだから当然だ。
すべての厄災から審神者を守るのが刀剣男士の使命である。そのためならば、悪漢となろうとどうだってよかった。結果的に彼女を死の淵から救いあげられたのであれば、そのまま折られて打ち捨てられたとて後悔はない。
人の身に未練がないかといえば、噓になる。村雲江をはじめとした、江の仲間を残すことを思うと胸が痛んだ。心地いいこの場所は手放し難く、だからこそ五月雨江の感情は儘ならなかった。
百を超える刀剣を束ねる彼女を自分一人のものにしようなど浅ましい願いを抱いて死んでいく。これがこの分霊の運命なのだと、五月雨江は受け入れていた。
が、しかし。いつになっても、五月雨江の行いが晒されることはなかった。
審神者は短刀に囲まれて、調子を取り戻したことを無邪気に喜ばれている。彼女の肌の下を流れる五月雨江の霊力を、彼らが感じていないはずがない。ただ何も言わないのは、彼女がそれを明らかにしないからだ。彼女の息災が最優先であり、彼女が良しとするならばそれ以上を詮索しなかった。
「頭」
五月雨江はそろりと、審神者が一人の隙を狙って近づいた。
あの日以来、二人きりで話すのは初めてだ。次にそうするときは、自分の命が潰える時だと思っていた。
審神者はいつも通り気配のない五月雨江に驚いて、服の裾をキュッと掴んだ。逸らされた瞳には困惑が浮かべど、嫌悪は見られない。
「なぜ、私を罰しないのですか」
「五月雨は私を助けてくれたから……」
「違います」
「違わない、違わないよ」
審神者が彼女らしくなく、頑なに首を横に振る。眉根を寄せて視線を彷徨わせ、五月雨江の方を見た。
二歩、彼女が五月雨江に歩み寄る。審神者は五月雨江の服を掴むと、彼の胸板に頭を預けた。
「違うって、わかるの。五月雨のこと、好きになっちゃったから」
言い聞かせるような口調だった。五月雨江はどうしようもなくなって、彼女の肩に手を置くに留めた。この本丸では、審神者がそう言うならそうなのだ。彼女がそう思うなら、それは真実となる。
「頭がそう仰るなら、そうなんでしょう」
だから、五月雨江は審神者の想い人であり、忠心深い犬だった。
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