Sink

ひどいことして

書きたいとこだけ

「あっ!」
 中が大きく唸る。同時に審神者は身を捩り、両腕で顔を覆った。
 夜半、静かな夜に審神者と富田江は睦み合っていた。富田江以外の男を知らないまま、燃え上がるような欲望を抱えた審神者は、夜な夜な富田江に愛くるしく強請って、彼はそれに応える。
 彼女の好きな場所、弱い場所を富田江は繰り返し探った。声、表情、体の動き、発汗、些細な変化から彼女の欲を満たすため、最適な触れ方を頭に叩き込む。審神者は、激しくされるよりは焦らされる方が好きで、囁かれるのがより弱いらしかった。
 夜を重ねて覚えた手練手管を用い、今宵も女の身体を暴いていた富田江は、羞恥に顔を隠し身悶える審神者をすっと細い月のような瞳で見下ろす。
 ——これでは、表情が窺えない。
 荒い息の合間に喘ぐ口元から十分快楽には浸れていることは明らかだが、富田江はもっと詳にその様子を知りたかった。眉を顰める様も、思わず滲む涙も、何一つ見逃したくはない。
 富田江はらしくない乱暴な手つきで、彼女の両腕を掴んだ。富田江の大きい手は容易く審神者の細腕を一纏めにしてしまえる。
「隠さないで、すべて私に見せて」
「っ……」
 布団に押し付けて体重をかければ、審神者は顔を隠す術どころか抵抗もできなくなった。動いていないのに、奥がきゅっと締まる。ああ、こういうのがいのかな、と富田江は得心した。
 この笑顔を曇らせる趣味はないが、それが望みなら応えることはやぶさかではない。追撃するように、「こうされるの、好き?」と訊ねると、言葉で聞かずとも返事は明らかだった。
 表情、体の動き、全てが彼の問いを肯定する。腰を引くと、先ほどよりも滑りが良かった。
「私にひどいことをされたいのかな」
「んっ、あ、あッ……」
「ふふ、素直ないい子だね」
 ひどいこと、の言葉にまた体が反応する。奥を突くと、審神者はきゅっと目を閉じ、その拍子にぽろぽろと涙が溢れた。
 首を必死に縦に振る姿に、富田江の唇が薄らに弧を描く。日の下で幼なげで可憐な笑顔を浮かべる審神者は、富田江に組み敷かれ快楽に浮かされながら『ひどいこと』を待ち侘びる淫らな女の顔をしていた。
 ならば彼も、それに応えるのが道理だ。富田江の舌が唇を淫靡に舐める。その表情は、到底王子様とは呼べない奸悪なものだった。


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