すべて重ねて、思うがままに
繁華街の外れにある交差点でタクシーを止め、料金を支払い降車する。乗り降りで富田が差し出してくれる手を掴むのももう癖みたいなもので、求められるがままに応えているだけと分かっていながらも、様になった王子様らしい仕草に胸を高鳴らせた。
王子様に手を引かれ、向かった先はお城——ではなく、それに見立てた外観のラブホテルである。
私と富田は恋人同士で、現代に用事があるたびに一泊し、ふたりきりの時間を作っていた。本丸の私の部屋は、どこから敵が侵入しても対処できるような構造になっているので、いくら防音がしっかりしているといえど、どうしても周りが気になってしまう。なにせ、百振りを帰る刀剣男士と暮らす大所帯なので。そのため、現代でのお泊まりは、気兼ねなく愛し合うことのできる絶好の機会だった。
とはいえ露骨に〝そういう目的〟と思われるのも恥ずかしくて、これまではビジネスホテルのツインの部屋を予約するようにしていた。けれど今回は富田に事前に許可を得て、ラブホテルを予約している。ラブホテル専用の予約サイトがあることを、私はこのとき初めて知った。
「行こうか。何か必要なものは?」
「ない……と、思う。大丈夫」
事前に見せた地図を富田はもう頭に叩き込んでいたらしい。降車時に繋いだ手をそのままに、彼はホテルまでの道のりをエスコートしてくれた。
煌びやかなネオン街に不釣り合いな高貴な顔立ちを見上げると、この人が私の恋人だなんて、と付き合って数ヶ月が経った今でも不思議に思ってしまう。私の視線に気付いた富田に微笑みかけられて、照れ隠しに下を向く。これから〝すごいこと〟をするつもりなのに、こんなことで恥じらっていてどうする、と必死に自分を奮い立たせた。
ホテルへと入ってシャワーを浴び、ナイトウェアに着替えて広いベッドの上に飛び込んだ。それを追った富田が、ベッドに横になった私の上に覆い被さって、口付けを落とす。幾度も触れるだけのキスをして、吐息に熱が混ざり始めた頃、私は富田の胸をそっと押した。
「今日はやりたいことがあります」
「やりたいこと?」
私が形式ばった口調で挙手をすると、富田は珍しく目を丸くしていた。その表情がなんだか可愛らしくて、私はにやにやとした笑みを隠せない。ベッドのそばに置いていたトートバッグから、私は事前に用意していたものを取り出した。
「これは?」
「目隠しと手錠です」
私が富田に見せたのは、ふわふわのついた手錠と黒くてツヤツヤした布地の目隠しだった。
ラブホテルではお金を払えばレンタルできることもあると知っていたけれど、どこの誰が使ったか分からないものを富田に装着させるのは気が引けて、わざわざ通販サイトで購入した。それをこんなところまで持ってくるのにも勇気が要ったけれど、そんな無駄な勇気を振り絞ってまでやりたいことがあったのだ。
「……これを富田につけてもらいたいんだけど」
「構わないよ」
「ほ、本当に? わかってる?」
「君が望むなら。それをつけて、何かしたいことがあるんだろう」
自分で言うのもなんだが、私は富田以外とまぐわったことはなく、富田もまた同じはずだ。これまで変わった嗜好の性行為をしたことはなくて、至って普通の、お行儀のいい基本に則ったセックスばかりをしてきたつもりである。それなのに突然目隠しと手錠を出してきた恋人に「これをつけてほしい」と言われて、いくらなんでも受け入れるのが早すぎるのではないかと思った。
色良い返事を即答した富田に私が唖然としていると、彼は自ら目隠しを手に取り「これでいいのかな」と装着する。それどころか「手は前と後ろ、どちらに縛ろうか」とまで聞いてくるので、「応えることは嫌いじゃない」と言うにしても限度がある、と思った。私以外の頼みをこうも気軽に聞き入れるとは思いたくないけれど、ここまで素直だと悪いことに巻き込まれそうで心配になってくる。もちろん富田は賢い人だから、そんな心配はいらないのだけれど。
「じゃあ、後ろで……」
富田は私の言葉に従って、背中で両手を揃えた。ふわふわの手錠を彼の腕にかけると、富田は広いベッドの上、視界を奪われ手を自由に動かせなくなってしまう。
安っぽく華美な装飾の室内でキラキラした顔の富田がこんな格好をさせられて、なんて倒錯的な光景だろうと思った。全ては合意の上とはいえ、あまりに目に毒で罪悪感が募る。
私は生唾を飲み込んで、富田の頰に触れた。肌はどこまでも滑らかで、毛穴や色斑すら見つからない。陶器のように白い頰に私は指先を滑らせた。
薄い唇に、自らの唇で触れてみる。いつもなら恥ずかしくて目を閉じてしまうけれど、今、富田からこちらが見えないのを良いことに、私は薄く目を開いたまま唇を重ねた。目元を隠しても整った顔立ちはその美しさを損なうことなく、それどころか普段から思考を読ませない底知らなさを醸し出す目元が覆われていることで、さらに秘めやかな美貌を引き立てていた。
しかし私は別に、この男の顔がどれほど整っているかを確認するためにこんな非常識なことをしているわけではない。口付けもそこそこに、私は富田の首筋に舌を這わせた。
突然身体を舐め始めても、富田は驚く様子がなかった。私は恐る恐る、首筋から鎖骨を舐めたり口付けたりする。唇を降下させながら彼のナイトウェアの前を開いた。
骨ばった身体を指でなぞりながら反応を窺うも、富田は視界が奪われていないみたいに私に顔を向けて口元だけで微笑んでいる。それは、私が期待した反応とまるで違っていた。
彼が無抵抗なことをいいことに、私は富田の胸を弄り始める。女と違って当然平面で、富田の筋肉は豊満な身体の太刀や槍のように隆起してはいなかった。
薄くとも硬い筋肉はどう触っていいのか見当もつかず、ぺたぺたと手のひらで触れてみる。それでもやっぱりそれらしいリアクションをしてはくれないので、私は意を決して彼の胸の先端に指先を伸ばした。
男でも感じる人がいるとかいないとか、そんな話を聞いたことがあるけれど、一体富田はどちらだろう。私がいつもされるのを思い出しながら、縁を軽くなぞってから先に指を掠めさせる。それから舌を当ててみたけれど、そこは硬くなることもなく、私のしたいようにされることを受け入れている、ただそれだけの様子だった。
「富田」
「どうしたの」
「ここって……何か感じる?」
くにくに、と指先で先端を捏ねてみるも、富田は困惑した様子で少し唸ったのち、「くすぐったいね」と答えた。私が何かの反応を期待して問いかけたことを分かっての返事だろう。少なくとも、私が狙ったような性的快感はまるでないようである。
その後も先を擦ったり、脇腹や臍周りを撫でてみたりしてみたけれど、富田の下着の下は一向に形を変えることはなかった。これだけ触れられたのだから少しくらいは反応があってもいいだろうに、試しに触ってみても柔らかいままである。突然陰部を触られたことに対してはぴくりと肩を跳ねさせていたけれど、ただ驚いただけで感じているわけではなさそうだった。
「ぎ、ギブアップ! だ、だめだ。私に富田を攻めるなんてできない……!」
試行錯誤の末、私は白旗をあげて広いベッドに崩れ落ちた。
あれやこれやとインターネットで得たアダルトな知識を総動員して触れてみたものの、富田を気持ち良くさせることはついぞ出来なかった。嘆く私に、富田はくすくすと微笑ましげに笑っている。まるで子供のおままごとの行く末を見守る保護者だ。私の前戯など、彼にとっては本当におままごと同然なのかもしれない。
突然こんな道具を持ち出してまで妙なプレイに及んだのは他でもない。私がいつも、富田にされっぱなしだからだ。本丸という俗世を離れた場所で生まれ育ち、耳年増になるばかりで何も知らない私を富田は導いて、怖い思いをしていないかを具に確かめながら、快楽を覚える手ほどきをしてくれた。普段から前戯だって私ばかりが一方的にされるばかりで、富田は私が気付かないうちに準備を整えている。
一緒の夜を越えるごとにそれが段々申し訳なく思うようになってきて、私も一度くらいは彼のことを攻めてみたくて、私はこんな思い切った手段に出た、というわけだ。
「私を気持ち良くしようとしてくれたんだね。君の思いは伝わったよ」
「でも、気持ち良くなかったんでしょ……」
いじけきった私に、富田は困った様子で苦笑した。気を遣わせたことが恥ずかしくなって、私は膝に顔を埋める。自分一人が浮かれて、馬鹿みたいだと思った。
思い返せば、富田はいつも私の意志を汲み取ったように私の触れて欲しい場所に触れてくれる。だけど、今日の私はどこまでも独りよがりだ。彼の真似をしていたのは指先の動きだけで、ちっとも富田がしてくれるみたいに、相手に寄り添うことが出来ていなかった。
「体も心も、同じことさ。重ねる時は相手の反応をよく見るんだ」
「相手の反応……?」
優しく説き伏せるような口調には、聞き覚えがあった。茶の手ほどきや交渉術の指南をしてくれるときと同じ声色である。
私が顔を上げると、私の羞恥心を取り去るような笑みを浮かべた。弧を描いた唇には、普段私を見守ってくれる優しさ以外のものが滲む。その気配に、背中がふるりと震えた。
「せっかくの機会だ。今日はその手ほどきをするとしようか」
その、とはなんの話だろう。私がぽかんとしていると、富田はいつの間にかふわふわの手錠も目隠しも外していた。本当は私が外さないと取れない仕組みのはずなのにどうして、と疑問を抱くも、刀剣男士にはこんなおもちゃの拘束具を外すことなど造作もないのかもしれない。
彼は私の手首を掴んで、体の前で揃えさせた。母親が小さい子供に行儀を教えるような手つきだ。ぽかんとしているうちに今度は私が拘束されてしまって、そのままあれよあれよと目元まで目隠しで遮られた。
目隠しといってもただの布だから多少の光は感知できるだろうと思っていたのに、完全に視界は真っ暗で何も見えない。腕の拘束も相まって、言いようのない不安に襲われた。
「怖い?」
「ひゃっ」
「君が怖がることはしないよ。どうだろう、これから私のすることに付き合ってくれる?」
いつの間に移動したのだろう。背後から耳元で囁かれ、変な声が喉から溢れた。
先に拘束と目隠しをしたいと言い出したのは私で、他人にさせたことを自分はしたくない、なんて言い出せるはずもない。初めてのことで不安はあれど、相手が富田である以上、本当に怖い思いをすることはないという信頼もあった。
そもそも、私が少しでも嫌がる見せれば、彼はこんなことをしないはず。自分の考えが何もかも彼の手中にあることに、私はうなじのあたりに汗を滲ませる。富田の問いには、当然首を縦に振った。
「では続けようか」
視界を奪われると他の五感が鋭くなるとはよく聞く話だが、こんなおもちゃみたいな目隠しでも同様のことが起こるらしい。富田が側にいる気配が、いつもよりも鋭敏に感じられる。囁きの位置から、今はきっと私のすぐ背後にいるのだろうと想像がついた。
「……っ」
富田の指が私の耳の淵に触れた。産毛の先を撫でるだけのタッチに、思わず身を強張らせる。指が耳から離れたかと思うと吐息が頬にかかって、耳たぶを柔らかく食まれた。
「っ、……!」
彼が吐息を漏らすだけで、その熱さが私の身体に移っていくみたいだった。次第にそれはこめかみから頬への口付けに変わって、唇で触れられていない方の頬に手を添えられる。横を向くように促されそれに従うと、唇に富田の吐息がかかった。
キスされる、と思ったのにそれはいつまでも触れることなく、気配はそばにあるはずの富田が本当にそこにいるのか、私はどんどん不安になってくる。「富田……?」と呼びかけるとその心細さが声色に乗って、それを合図に唇を塞がれた。これではまるで、私が口付けを強請ったみたいだ。
「あ……んっ、ふ……っ」
今日に限った話ではないけれど、富田の口付けはいつも長かった。私が酸欠で応えきれなくなって胸を叩くまで舌先で翻弄した後、息を荒くしている私を見て彼は満足げに微笑む。あまり自分の欲望を露わにしない富田が感情の変化を示すのはとても珍しいことで、だから私は毎度涙が滲むほどに苦しいキスをされても文句を言ったことはなかったし、内心ではそれを望んでいた。
けれど今は両手を拘束されていて、後ろから口付けをされているから、抵抗も出来ない。口内に忍び込んだ富田の薄い舌が、いじわるに私の舌を弄ぶ。苦しくなる前に唇を離され、また口付けられ。そんなことをしているうちに頭がぼーっとしてきて、気付けば背後の彼に体重を預けていた。視界も手の自由も奪われた中、彼の温もりだけが自分の居場所を確かにしてくれていた。
汗ばんだ胸元に冷たい空気が触れる。ナイトウェアの前を開けられたのだろう。五つあったボタンはすべて外されて、私はそれを羽織っているだけの状態になった。
どうせ脱がされると分かっていて着用した下着は、ショーツのサイドや胸の谷間に紐が走るセクシーなデザインになっていて、今正真正銘、富田だけにその姿を見られていると思うと殊更恥ずかしく思えてくる。膝を擦り合わせ、吐いた息は自分が思う以上に熱を持っていた。
富田の手が内腿を撫でる。指の腹がつつつ、と私の身体をなぞり、腹の表面を撫でて下着のワイヤーに及んだ。
「解くよ」
「……っ、」
このブラは胸の中心にあるリボンを解くと胸が露になる構造になっている。初めて着けて見せたときはその変わったつくりを見せびらかすのが楽しくて、新しいおもちゃを手に入れた子供のようなドキドキが肌を晒す羞恥を上回っていた。
しかし、今こうして彼の手で解かれると、途端に恥ずかしくてたまらなくなる。乳房が富田の視界に晒され、そこだけがより冷たく感じたことから、先端が熱を帯びて硬くなっていることがわかった。
胸が大きな手に包まれ、形が変わる。先端を避けてふにふにと揉まれ、期待に身体は火照った。何よりも恥ずかしいのは、彼の手の邪魔にならないよう前に揃えて拘束された腕を少しだけ浮かせていることだ。好き放題されるがままのシチュエーションにも拘らず、私がされたくてそうしているみたいで。
「んッ♡ ……っ」
乳輪だけを掠める指先がじれったく、私は思わず身を捩る。無意識に腰を反らしてしまっていることに気付いて、恥ずかしかった。口に出すより饒舌に、早く触れて欲しいと強請っているようなものだ。目隠しされているから、意識しないとそんな自分の行動にも気付けない。
「物足りない?」
「……っ、さわってほしい……♡、もっと」
乳輪の膨れた部分を撫でられて、けれど決して先端には触れない。そんなタッチで焚きつけられれば、私は素直に欲望を口にするしかなくなった。
背後にいた富田が私の背を手で支えながら動いた気配がする。体勢を変えるのかな、と思っているとそのままゆっくりベッドに寝かされて、私は仰向けになった。胸の前で揃えていた手が、手首を掴んで頭の上に持ち上げられる。私の下半身を富田が跨いだようで、太ももに筋肉質な温もりが触れた。
「手は下ろしてはいけないよ。出来る?」
「は、はい……♡」
「いい子だね」
こういう時に富田に褒められると私は嬉しくて堪らなくなってしまって、きゅんとお腹の奥が疼いた。
富田の手が、重力に従って流れた胸をかき集める。片方のそのまま親指が乳頭に触れ、押し込まれた。反対側の胸の先が爪で掻かれて、望んでいた通りの快感に腰が跳ねる。
「あっ♡ あ、あうっ、んんッ♡ うぅ、ん、っ」
「君はこの先のところを小刻みに触れられるのが好きなんだね」
「っ! ふ、っ、……♡ あ、ッあ、あ……♡」
私の気持ちいいところは全部富田にお見通しで、それを言葉にされると自分の淫猥な部分を直視させられているような気分になって、尚更気持ちよくなってしまう。全部全部、富田に触れられる部分が気持ちいい。自分の体のどこを触られたらこうなるなんて、私はずっと知らなかったのに。富田だけにそれが知られていることが、信じられないくらい恥ずかしくて、気持ち良かった。
「それから、先を吸われるのも弱いみたいだ」
「あうぅッッッ♡♡ んっ、あ、あッ、♡」
ぢゅっ、と音を立てて、富田の唇が乳首に吸い付く。口内で吸い上げられる刺激に喘ぐ合間にざらざらした舌の表面が敏感に尖った乳頭を撫でて、声が抑えられなくなってしまう。
シーツの上を泳いだ手が手近なところにあった枕の端を掴んで、ぎゅっと力を込めて快感を逃がそうとする。腰が揺れてしまいそうなのに富田の脚に抑え込まれているせいでそれも出来なくて、体の中でぐるぐる気持ちいいのがずっと回って逃げ場がなくって、私は喘ぐばっかりだった。
「ッ、ふ、うぅ♡ んッ♡ あっ、あ……ッ!?」
不意に下半身の重みなくなって、反動で腰がぴくっと小さく浮く。富田が私の上から退いたのだろう。すると今度は片方の胸に触れていた手が太ももの間に入って、私の脚を広げさせた。
片膝が胸の位置に来るくらい大きく開かされると、内ももにかいた汗のせいでそのあたりが涼しくなる。次に触れられるであろう場所への期待に、溢れた愛液が下着を汚した。
「ッッッ~~♡」
「脚をこのまま、上げたままにしておくんだよ」
胸の先に唇を寄せたまま富田にそう命じられ、吐息による快感で頭がぐちゃぐちゃになりながら私はこくこくと何度も首を縦に振って頷いた。言われた通り足を開いたままでいると、富田の指が下着の上から恥丘を撫でる。染みが出来ているであろう場所を指先がうろうろと彷徨って、クリトリス周辺を掠めるだけで腰が浮いてしまいそうになる。きっと富田の指には、湿り気も伝わっているんだろう。
「っ♡ とみ、富田……♡」
「うん?」
早く直接触って欲しくて彼の名前を呼ぶと、自分でも信じられないくらい甘ったるい声が出た。辛うじて下ろさないよう維持している膝はぴくぴく跳ねて、分かりやすくどこが気持ちいいかを表すような動きをしていることだろう。だけど富田は私のしてほしいことなんて分かってるくせに、あえてそれを避けて熱を持った恥丘を撫でた。
「言っただろう、相手の反応をよく見るんだ。君はここを、触れられると強く感じてしまうね」
「っっっ!?♡」
不意にクリトリスを強く擦られ、腰が跳ねる。いっぱい焦らされたせいかただ触るよりも強い快感が走って、膝を下ろしてしまいそうになった。
「こうやって優しく撫でられるのと」
「ん、んぅう~~ッッ♡」
「細かく擦られるの、どちらが好き?」
「あッ、あ♡ あ゛ッッ♡ やッ♡」
クリトリスをぐりぐり刺激されながら聞かれて、喘ぎ声を上げるばっかりで答えられないのに、富田は私で言葉での返事を求めた。さっきの再現をするように触れ方を変えて刺激され、強弱をつけて触れられるせいで一向に気持ちいいのに慣れてくれなくて、喘ぎ声ばっかりが私の口から出るから、富田の問いに答えられない。
「ん゛ッ、うぅ♡ ッ、っ~! あ、あッ♡ どっちも、どっちもすきッ♡♡」
「ふふ、うん、ちゃんと言えたね」
「富田にさわられるの、ぜんぶすきっ♡ あ゛っ♡ んんうぅッ♡」
湿り切ってぴたっと張り付いた下着を浮かせて、その隙間から富田の指が入り込む。愛液でぬるぬるになったクリトリスに、富田の指が直接触れた。ぴんっと張り詰めてずっと触れられるのを待っていたそこは、軽く捏ねられるだけで達してしまいそうになる。
「あッ♡ あ、あうっ、んッ♡ ん、うぅうッ♡♡ 」
布越しのじれったさから一転、直接的な強い刺激に快感の波が止まらず、腰が震えっぱなしになる。ゆっくり撫でられた後にくりゅくりゅ、とクリトリスを擦られると、その緩急だけで軽く達してしまった。甘イキしたあとにもずっとそこを追い詰めてくるから気持ちいいのが止まなくて、それでも私は言われた通り腕と足を下ろすことなく彼の指示を守り続けていた。
「イっ……♡ イったッ♡ ずっときもちいの、すご、ッ♡ くてっ、♡♡ あッ、あっ、うぅ、んんんッ、まって、ま、またイくっ♡」
「うん、いっぱい気持ちいいね」
「イ゛くッ♡♡ ん゛っ、う……ッ♡ ~~~ッ!」
小さな絶頂が重なって、私はクリトリスだけで激しくイってしまった。中がずっとびくびく震えて、余韻に体の自由がままならない。ぐったりしていると履いたままだった、もう何の意味もなさない下着を脱がされて、その流れで足を下ろされる。ずっと上げていたせいで血の巡りが悪くなっていたみたいで、じわりと爪先が熱くなった。
はぁ、はぁと肩で息をしていると、不意に唇に柔らかいものが触れた。富田の唇だ。私は息も絶え絶えなのに夢中になって唇に吸い付いた。ちゅ、ちゅと軽い音にも胸がきゅんと高鳴って、気持ちいいのと好きって気持ちでいっぱいになって、頭がぼーっとしてくる。
「と、富田ぁ……」
「どうしたの」
「っ……♡」
外ばっかりでイかされて、一度も触れられていない中がずっとひくひく戦慄いている。真っ暗な世界の中で、自分の身体の状態がいつもより鋭く感じられるから、今欲しいものもはっきりと分かった。
私の欠けてる部分を埋めるみたいに、富田でいっぱいになりたい。私がそう願っているのを富田はもう分かっているはずなのに、今日の彼はやっぱり少しだけいじわるだった。
「何か、私にして欲しいことがあるのかな」
耳元で囁かれ、頷く。どう答えるかすら彼に誘導されているのだろう。それでも私はもう、富田に少しも抗えない。私が欲しいものを、全部全部、彼がくれるから。
「そう。何をして欲しいの?」
「っ……や、やだ、はずかしい」
「どうして? 気持ち良くなることは悪いことではないよ」
「ひあっっ!?♡」
イったばっかりで敏感だったクリトリスをまた触れられて、私は情けなく喘いでしまう。私の言葉を急かすように富田は指の動きを激しくして、声を抑えたいのに手の自由は儘ならないまま、私は身体をくねらせた。
「だっ……てぇ、とみたに、えっちな子だと思われたくないっ……」
目隠しと手錠なんてアブノーマルなものを持ち出しておいて今更な話だと思うけれど、自分から欲しいものを口にするのが躊躇われてしまう。私から気持ちよくしたいとは言えても、私のことを気持ちよくしてと強請るのは淫らな後ろめたさが付きまとった。
「私におねだりできない?」
吐息を耳元に吹き込むように訊ねられれば、陥落は目の前だった。富田のやさしい声色とその指で拓かれる快感が、私の些末な羞恥心や疚しさをかき消していく。
「教えて、君がどうされたいか」
「っ……奥、深いところ……いっぱいにしてほしい……っ♡♡ 富田ので、ぐちゃぐちゃにされたい……っ♡」
「上手におねだりできていい子だね」
耳の淵に口付けられた後、額を大きな手で撫でられる。その手つきが心地よくて、私は目隠しの下で目を細めた。
「そんないい子には、ご褒美をあげなくては」
富田の身体の気配が遠ざかる。すると脇の下に腕を差し込まれ、身体を起こされた。ぐったりとしている私を軽く抱き上げると、下ろされたのは彼の膝の上だ。
腕の内側に髪の感触が触れる。私の腕で出来た輪に彼が頭を差し込んで、富田の首に腕を回すような姿勢になっているのだろう。内腿には固い熱の感触があって、先ほどまでまるで反応を示さなかったそれが勃起していることに驚く。
「とみたぁ、……顔見たい」
「わかったよ。今解くからね」
富田は言葉通り、私の目隠しをそっと解いた。するとすぐ目の前に富田の顔が迫っていて、何度も見た煌びやかな顔立ちに胸が高鳴る。直視するのが恥ずかしくて、思わず私は彼の首筋に顔を埋めた。
「少し足を開いて」
「ん……うん、っ……」
富田の指が陰部に触れ、中に指が差し込まれる。ちゅこちゅこと浅い部分に出し入れされ、十分濡れたそこを軽く慣らすと、そこに切先が宛がわれた。思わず腰を揺らすと亀頭がクリトリスを掠め、思いもよらない快感に私は富田の首にぎゅっとしがみつく。
「力を抜いて。そう、腰を下ろすんだ。そっとだよ」
富田に言われるがまま、腰に添えられた手に従うまま私は浮いた腰を下げていく。つぷ、と先端が埋まってからはすぐだった。ずっともどかしい思いをしていた中は長大なそれをすんなり受け入れて、重力に従うがまま飲み込んでいく。大きいものを受け入れる苦しさと、早く気持ちよくなりたい矛盾に膝が震えた。
「あ゛ッ……♡」
先端が奥に当たって、それでもまだ富田のものは全て収まっていない。このまま腰を下ろせば奥がつぶれてしまうかもしれないのに、中はまだ物足りないと戦慄いている。
「奥に私のものが届いているね、分かるかな」
「うんっ……♡ おっきいの、いっぱいになってる……♡」
「もう少し頑張れるかな、どう?」
「っ……♡ 奥に、もっと欲しい……♡ 富田の、ぜんぶくださいっ……」
「ふふ、健気な子だ。ではその気持ちに応えなくてはね。息を吸って」
私は富田に言われるがまま、深く息を吸う。「吐きながら力を抜いて」と言われその通りにすると、ぬち、と水音を立ててより深い場所へと先端が進んだ。少しずつ少しずつ、時間をかけて私の中が富田を飲み込んでいく。これ以上入らないってくらいお腹が苦しくて、中はずっとぎゅうぎゅう締め付けている。それでもじっくりと進めていけば、気が付けば富田のものは根元まで埋まっていた。
何度も目にしたそれはいつも信じられないくらい大きくて、きっと富田のことだから私が苦しくないように全てを収めたことはなかったはずだ。それが今、全部入ったことで富田をすべて受け入れられた気がして、気持ちいいと同時に幸せな気持ちでいっぱいになった。
「とみた、ちゅーして……♡」
「ん、うん……」
触れる唇は柔らかいのに、私のお尻を掴む手には力が入っていて、富田も気持ちよくなってくれているのかな、と思った。舌を絡め合いながら深く口付けを交わし、無意識に快感を求めて揺らしていた腰の動きが激しくなる。奥をぎゅっと締めると富田の手に篭った力がより強くなって、これが気持ちいいのかな、なんて思ったりした。
上手くできているかわからないけれど、それに応えるよう腰を動かすと、キスの合間の富田の吐息が荒くなる。生理的な涙で滲んだ目を開くと彼は見たことのないくらい熱の灯った瞳をしていて、それを見ると身体だけでは届かないような、心の奥がきゅっと満たされた感覚があった。
「とみた、すき……♡ すき、ん、うぅ……♡」
「うん、……私も、君が愛おしいよ」
「っ……♡♡」
少しだけ腰を浮かせた富田に奥をぎゅうっと押されて、つま先が丸くなる。さっきみたいな鋭い絶頂とは別の深くて幸せな気持ちいいのが続いて、ずっとこのままでいたいと思った。
何回達しても物足りなくて、息を整えてはまた口付けをする。富田に腰を支えられて、彼の手に合わせて下半身を動かすと、富田が最奥に腰を突き上げた。
富田が私で気持ち良くなっているのが嬉しくて、息を乱した彼の頬に唇をちゅ、ちゅとくっつける。そうしたら富田はまたやさしい眼差しでキスをくれるから、この幸福が一生続けばいいのに、なんて思ったりした。
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