Sink

君が輝けと願うなら

「先輩ってどこからが浮気とかって基準あります?」
「え? 何急に、ゆみちゃんなんかあった?」
「聞いてくださいよぉ」
 ゆみちゃん、と呼ばれたのは審神者の年の離れた友人だ。演練場で知り合った同業者で、経歴で言えば審神者のずっと後輩にあたる。演習訓練戦で対戦して以来、妙に懐かれ今では定期的に雑談や情報交換のための通話をする仲だった。
 彼女は社交的で明るく、いかにも最近の若者という感じの女性だ。現代に恋人がいるので、審神者はその相談や惚気を聞かされることが多い。彼女が恋愛絡みの質問を投げかけてくるときは大抵何か話を聞いてほしい時なので、審神者は察して先んじて問いかけた。
「彼氏が女友達含めたグループで旅行行くとか言い出して! 今めっちゃ喧嘩してるんですよ! 旅行ですよ? 男女3:3の! 絶対なんかあるじゃないですか! だからイヤって言ったらお前は男と住んでるじゃんとか言い出して、いや仕事だし同じ部屋で寝泊まりしないし! 私間違ってます?」
「う、うん。いったん落ち着こう」
 その剣幕に圧倒され、審神者はどうどうとそれを抑えた。
 確かに、男所帯の中に彼女が住み込みで働いているのを許す中、自分が一日二日寝泊まりするのが許せないという彼氏側の気持ちもわからなくはない。ただまあ、審神者も同じ状況に立たされれば一言文句を言いたくもなるだろう。3:3というのもなんか、いかにもだし。どちらの意見も理解できる分、審神者は返答に窮した。
「っていうか、男じゃなくて神様だし! 人間じゃないし!」
「…………」
「あっ、すみません。ヘンな意味じゃなくて!」
「いや、気にしてないよ。続けて」
 妙に気まずい空気が流れたのは審神者の恋人がその〝神様〟のうちの一振りだったからだった。
 審神者が促すと、彼女は再びつらつらと貯め込んでいた不満を吐き出す。それは今回の件に留まらず、「大体あのときだって」と昔の出来事にまで飛躍した。歴史修正主義者との戦争は一般には伏せられており、審神者という職は他人に語れることがあまりに少ない。それが喧嘩の原因になることもあるらしく、やはり現代と本丸の遠距離恋愛は難しいんだなと審神者はしみじみと思った。
「先輩は富田江と喧嘩したりとかしないんですか?」
 彼女が挙げたのは審神者の恋刀の名だった。誰が呼んだか江の刀の王子様なんて通称がついた彼は、見た目も中身もその名に相応しい優雅な男だ。白と金がよく似合って、顔立ちや声、立ち姿からは気品が溢れている。
「喧嘩? そもそも私相手じゃなくっても富田が怒ってるの見たことない」
「そうなんですか? ウチには富田江いないからわかんないんですけど、ほら、刀剣男士って主相手には丁寧で物腰柔らかくっても刀同士だと結構言い合ったりとか、戦中とか暴言吐いたりするじゃないですか」
「それも……見たことないな」
「すごぉ」
 富田江は兵としてだけでなく、人としてもよくできた男士だ。交渉が得意というだけあって、意見の相違を揉め事に発展させない技量を持っている。舌戦は余裕を失った者から敗北するというが、彼は私生活でも余裕をたっぷり備えていた。なんでも受け入れるイエスマンかといえばそういうわけでもなく、相手の自覚もないうちに自分の要求を飲ませる術にも長けている。
 ただ持論の正当性を主張して相手を言い負かすだけが勝ち負けではないのだと、審神者は富田江に出会ってから知った。
「じゃあ先輩が何してても……例えば、他の刀と親し気にしててもやきもちを焼いたりとかはないんですか?」
「言われたことないなぁ……」
 審神者はそんなことあったっけ、とふと記憶の引き出しを片っ端からひっくり返したが、思い当たる節はない。ただ他の刀と――と言われて、一つ浮かんだ思い出がある。それを話すか迷って、審神者は飲み込むことにした。
「……いや、うん。ない」
「何ですか今の間は!」
 が、コイバナ大好ききゃぴきゃぴ女子のゆみちゃんがそれを見逃すはずもない。聞きたい聞きたいとせがまれ、審神者は渋々口を開く。
「前にノリで豊前に膝枕してもらったことがあるんだけどさ」
「すでにシチュエーションがやばくないですか?」
 確か、両膝に篭手切江と桑名江が乗っかっているのを見かけた時だった。
 仲が良くて微笑ましいことだと見ていたら、それを羨んでいると思われたらしい。「主も膝で寝っか?」と言った豊前江の顔は見るからに断られること前提のちょっとした冗談を言うときの表情だったが、なぜかそれに篭手切江と桑名江が加勢した。
「りいだあの膝はすごいんです」「一度は寝てみたほうがいいよぉ」と怪しいダイエット飲料のPRでもしているのかと言わんばかりの勢いで豊前江の膝枕の良さを語られ、それを聞きつけて松井江までやってくる始末だ。
 全員が冗談に乗っかった結果、この流れで寝ないわけにもいかず、そんなつもりがなかった豊前江の膝で審神者が一旦寝てみることになったのだった。ちなみに感想は、「カッコいい顔が頭上にあって怖い」だ。
「それ見られてさすがに怒られるかと思ったらさ、怒られはしなかったんだけど……なんか知らない間に私が富田に膝枕する話になってて」
「ええ?」
「いやうん……ごめん、今のなし。惚気だわただの」
「えー! 聞きたい聞きたい!」
「それだけなんだって……。やばい、恥ずかしくなってきた。もう遅いから切るね」
「ちょっ、せんぱーい!? 面白いのはこれからですけどー!?」
 審神者は当時を思い出し、顔が赤くなるのを感じて無理矢理通話を切断した。
 時間を見ると、夜も更けていい時間だ。そろそろ寝るかと電子端末をスリープさせると、ちょうどそのタイミングで障子の外から声がする。富田江の声だった。審神者はさっきの話を聞かれたんじゃあるまいなと気まずく思いながら、「入っていいよ」と声をかけた。
「ごめんね、夜分遅くに。急に君が恋しくなって」
「う、うん。大丈夫」
 審神者の私室に足を踏み入れた富田江は寝間着の浴衣姿だった。さらりと伸びた髪を右肩に流していて、それが妙に色っぽい。普段の戦装束とはまた違った魅力があり、審神者は見慣れたはずのその顔を改めてカッコいいなあと思った。
「あのさ、声聞こえてた? 友達と話してたんだけど」
「いや、何も聞いていないよ。もう眠るところだったかな」
「そのつもりだったけど、富田が来てくれたならもうちょっと起きてる」
「可愛いことを言ってくれるんだね」
 審神者はいかにもな日本家屋の中に、一室だけ馴染み深い洋室を私室として用意していた。ベッドに審神者が腰を下ろすと、富田江がそれに倣う。以前冗談交じりに言った「富田が王子様なら私のことお姫様にしてよ」という悪ノリを正面から真に受けてくれているので、富田江の前で審神者はお姫様だった。
「誰と話していたの?」
「ゆみちゃん。彼氏と喧嘩しちゃったみたい」
「それは大変だ。それで、君が相談に乗ってあげていたんだ」
「相談に乗るって程、何も助言出来てないけど」
「話を聞いてくれただけでも有難かったと思うよ。君はいつも聞き上手だから」
「そうかなぁ」
 聞き上手というならそれはあなたの方ではないか、と審神者は富田江を見上げた。彼女の様子を伺うように小首を傾げ、髪が揺れる。その細やかな仕草すら貴族染みている。
 富田江は審神者に限らず、人の話を聞きたがった。他人を理解することこそが交渉の初歩であるからか、それが板について、そういった場でなくても富田江は他人の声に耳を傾ける。そんな姿勢は戦う様にも表れて、彼はいつも敵の一太刀を聞き入れる様に受け流していた。
 そんな富田江を尊敬し、愛おしく思う反面、審神者はそれを寂しいと思うことがあった。
 彼の願望や欲は、その能力を以て伝えるまでもなく果たされる。彼自身の願いや考え事を口に出すことは、ほとんどなかった。
 恋人として、何か強請られてみたいと思うのは強欲だろうか。もしもそんな小さな悩みを打ち明ければ、きっと富田江は「いつも叶えて貰っているよ」と甘い言葉を交えてうまく説き伏せ、審神者を安心させるだろう。
 けれどそうではなく、本当の彼を知りたい。恋人として、自分くらいは誰にも言えず飲み込む感情を受け入れたいと思うのだ。いつも富田江が、審神者に応えてくれるように。
「そういえば話変わるんだけどね、ゆみちゃんとそういう話になったんだけどさ、富田って怒ったことってある? 私相手じゃなくて、敵とか本丸の誰かとか、人相手じゃなくてもいいんだけど」
「怒ったこと……か。思い当たらないな。本丸で暮らしていて、何かに不満を抱いたことがないから」
「そっ……かぁ。そうだよね」
 審神者は落胆が声に表れそうになって、慌ててそれを誤魔化した。
 いかにもなわざとらしい声色を、富田江は追及しない。代わりに、「君に貰ったこの身はいつも満たされているよ」と重ねて囁く 審神者はそういうことではないんだけれど、と思いながらも素直に嬉しくなってしまって、照れ隠しに小さく頷いた。
「怒ることがないっていうのはいいことなんだけど、何か困ったこととか嫌なこととか……そうじゃなくっても、してほしいこととか。思ってること、なんでも言ってほしいなって」
「わかった、心がけよう。約束するよ」
 富田江があたたかい声色でそんな風に言いながら、審神者の肩を抱く。富田江は線が細いが肩幅が合って男らしい体格をしていた。審神者が胸板に体重を預けても、その体は少しも揺らがない。
「してほしいこと……というなら、今は君に触れたいな」
 肩に回った手が髪に触れ、頭を撫でた。そのまま審神者が顔を上げると、富田江は唇を重ねた。
「……構わないかな」
「うん、富田の好きにして」
 繰り返し小さな口付けをして、そのままベッドに沈む。普段は審神者の望みを聞いてばかりの彼がほんの少しだけ欲深くなるこの時間が、彼女は一等好きだった。

「先輩聞いてくださいよぉ!」
 スピーカーから響くのは例のごとくゆみちゃんの声だ。以前揉めていた旅行の件は大般若長光に相談して何とかことを収めたようで、今はすっかりラブラブらしい。審神者はこの状況で大般若に相談するって相当肝据わってんなと思ったが、口には出さなかった。
「どうしたの? 彼氏とはラブラブなんでしょ?」
「違うんです! あの、真面目な仕事の相談なんですけどいいですか?」
 珍しく彼女が声の調子を落としたので、これはいつもと違うぞと審神者はつい姿勢を正した。
 彼女はこの任に就いてまだ歴が浅いものの、霊力も豊富で優秀だ。戦術にはまだ粗があるが、向上心高く、素直で刀剣男士の助言もしっかり聞き入れ伸びしろがある。明るくて打たれ強いのでこれまで仕事の悩みなんぞほとんど聞いたことがなかったから、審神者は驚いた。
「この間新人審神者向け勉強会行ったんですよ。講習受けて試験やって、成績よかったら資材とか道具をもらえるやつ。先輩も受けたことあるって言ってましたよね?」
「うん。結構前だけど。それがどうしたの?」
「私めっちゃ頑張ろうと思って超勉強して、試験でかなりいい点数取ったんです。それなのに、報酬が貰えなくって」
「えっ、なんで?」
「わかりません……。その時審査した担当職員の人に問い合わせたんですけど、成績優秀者への報酬の基準は開示できないって言われて。でも、一緒に受けた子の様子を見ても私、多分貰えるラインに達してるはずなんです」
 どうしたらいいんでしょう、と漏れた彼女の声はらしくなく沈んでいた。
「成績表、見せてもらうことってできたりする?」
「あっ、はい。もちろん。今送ります」
 審神者が転送された成績表を見ると、確かにはなまる付けて褒めたたえてあげたいくらいの立派なものだった。審神者もその世代ではそこそこ優等生な自覚があったので、だからこそ彼女の努力がわかる。審神者の頃とは基準が多少違っていたとしても、この成績なら報酬を受け取って然るべきだ。
「確かにこれで貰えないなら誰が貰ってるのって感じだね」
「そうですよね? それで今、うちの長義と長谷部がブチ切れてて」
「うわ、怖いなぁそれ……」
 刀剣男士が時の政府に牙を剥こうものなら、一発懲戒である。さすがに山姥切長義とへし切長谷部ならそこらを弁えているだろうが、怒りの火が他に広がっては別の問題が発生しかねない。話を聞いてくれないお上と理不尽な態度に怒りを表す臣下に板挟みの彼女は、どうしようもなく困り果てて頼りになる先輩審神者に相談してみたわけだ。
 かわいい後輩の悩みとあらば、助けにならないわけにはいかない。それに、審神者はこの出来事に何か別の思惑がある気がすると感じていた。時の政府といえど、一枚岩ではない。不正やバグだってないとは限らない。審神者は考えた末に「昔お世話になった職員さんに聞いてみようか」と言った。
「えっ、いいんですか?」
「うん。昔、私も別の報酬が受け取れなくって、調べてもらったらバグがあったみたいだったから。今回も可能性がないわけじゃないし。もしかしたら、他の人も同じことで困っているかもしれないから、連絡してみる」
「助かります!」
 審神者はその後詳しい事情や試験の詳細を聞き、通話を切断した。それから古い通話履歴を漁り、かつて世話になった職員の連絡先を探す。
 交渉をするなら、まずは勝とうとしないこと。審神者の頭には、恋刀の言葉があった。


 結論から言えば、その事件の影には汚職があった。
 審神者が例の職員に連絡すれば、彼は親身になって話を聞いてくれた。あくまでもこの成績で報酬が貰えないとは何事か、というモンスターペアレント染みた姿勢ではなく、自身の経験もあってバグやミスを疑っているという体で。
 かつてひよっこだった審神者が後輩に目をかけるその姿勢に甚く感動したらしい職員は、すぐに調査をしてくれた。すると、どうやら担当者は特定の本丸に成績優秀者が受け取るべき報酬を別の本丸へ横流ししているということが判明した。芋づる式に余罪も見つかり、現在さらに詳しい調査を進めている――とのことだ。
 ひとまず一件落着か、と審神者は職員との通話を切ると、深い息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。
「つ、つかれた……」
 審神者は元々何か物申したり意見するのが苦手な性質だった。飲食店で注文したものを間違えられても、通販で不良品が届いても泣き寝入りすることが多い自分が、まさか後輩のためにここまで動くなんて。審神者は自分自身の行動力に驚いていた。
 しかし、予想以上の心労にくたびれはしたが、決して悪い気はしない。自分が他人に頼られる立場になったこと、彼女のために働きかけようと奮い立ったこと、自分事ながらそれが誇らしく感じる。
 なにより、一番強く感じたのは恋刀である富田江の影響だった。彼に憧れたから、可愛い後輩に応えたいと思ったのだ。自分の背中をそっと押してくれた彼の存在を、審神者はひと際愛おしいと思った。

 審神者は軽く身支度を整えて、畑へと走った。畑当番に任命された富田江は今日そこにいるはずだ。
 白い背中を見つけて思わず飛びつくと、富田江は驚いた様子で「おや、どうしたのかな」と審神者を振り返る。顔を上げると、富田江と同時に稲葉江の何とも言えない顔が目に入って、審神者はさっと彼から距離を取った。
「ご、ごめん」
「……我は先に戻っている」
「あぁ、あとは任せたよ。稲葉」
 稲葉江は富田江の持っていた農作業用のかごを受け取ると、倉庫の方へ歩いて行った。二人の間に割って入ったことと気まずい思いをさせたことで委縮した審神者に、富田江が微笑みかける。
「それで、どうしたのかな」
「……ごめんね、急に」
「ちょうど当番が終わったところだったから気にしないで。それより、君の話を聞かせて」
 審神者と富田江は近場の縁側に腰を下ろした。彼女は例の試験の件と、その後の顛末を語る。
「――でね、ちゃんと調査してもらえることになったの。富田がいろいろ教えてくれたおかげだよ」
「……そうか」
 富田江はいつもと変わらず審神者の話を穏やかに聞いていたが、一瞬何か遠くに思いを馳せるように視線をそらした。てっきり褒めてくれると思っていた審神者は、妙なことを言っただろうかと首を傾げる。「何かあった?」と訊ねても、彼ははぐらかすばかりだ。
「前に何かあったら言うって、心がけるって約束したのに?」
「あぁ、そうだった。ごめんね」
「どうしても言いたくないなら、無理には話さなくっても」
 やっぱり彼は自分の胸の内を語るのを嫌っているのだろうか。執拗だっただろうかと審神者が引くと、富田江はかぶりを振って、口を開いた。
「君のことを誇らしいと思う反面……寂しいという気持ちもあるんだ。不思議な心の動きだね」
「えっ、寂しい? なんで?」
「親心にも似ているのかな。それと心配。うまく事が運んだからよかったけれど、君が傷つく結果になっていたらと思うと胸が痛いんだ」
 てっきり手放しに褒められると思っていたものだから、富田江の予想外のリアクションに審神者は驚いて言葉に詰まった。普段吐露することのない彼の本心だからこそ、返答に躊躇する。この件を富田江に相談しなかったのは彼に認められたいという気持ちの表れでもあったので、それが却って心配をかけていただなんて思いもしなかった。
 確かに、今回は職員が協力的だったから良かったものの、例の汚職職員と結託していた場合審神者ごと口封じをされる展開だって有り得なくはなかった。歴史修正主義者との戦争は、一般に秘匿されている分組織も公ではない。最悪の想定をするならば、審神者の存在も権力にかかれば簡単に消し飛んでしまいかねない。
「勿論私は、君の恋人だから。親ではないんだけどね」
「そ、それはわかってるけど」
 富田江が冗談めかしてくすりと笑う。改めて恋人と言われたことが照れくさくて、審神者は軽い力で彼の肩を叩いた。
 普段穏やかで、負の感情を全く滲ませることのない彼がこうも感情を揺さぶられることがあるなんて。不安な思いをさせたことへの罪悪感を抱きながらも、少しそれを喜ばしいと思ってしまう自分もいる。
「なんか、意外。富田もそういう風に思うんだね」
「そうだね。自分でも驚くけれど……君のこととなると、少し余裕がなくなるかな」
「余裕がない富田とか想像つかないけど」
「君の前ではいつも――いや、やめておこう。恰好がつかないからね」
 富田江が徐に立ち上がり、審神者に手を差し伸べる。その手を取ると、そのまますっと立たされた。夕方、日が落ちる前の太陽が真っ赤に燃え、富田江の金色の髪と白い肌を染め上げている。風が吹くと髪が揺れて、より金糸がキラキラと輝いた。
「……富田は、いつもかっこいいよ」
「あぁ、だから君にかっこよくあって欲しいと求められていたいんだ。これが私の望み。……それじゃあだめかな」
 そんなことを言われて、否と言えるはずがなかった。審神者は赤くなった顔を夕日のせいにして、深く頷く。王子様みたいなかっこいいこの恋刀が、愛しくてたまらなかった。 


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