夜の主従逆転ごっこ
「えっ、これ、なに?」
「頭はこういうものがお好みかと。これまで気付けず申し訳ありません」
審神者は差し出された衣装を手に、考え込んでいた。
こういうものとは、と思いながらその布を検める。色やボタンの位置、ふんだんに盛られたレースを見て、彼女はすぐに見当がついた。ついてしまった。
これは、界隈の有名コスプレイヤーがプロデュースしたメイド服ではなかったか。しかも密林のあやしい海外企業産の薄っぺらく安っぽいやつと違って、結構いい値段がするやつではなかったか。
なぜ五月雨江がこれを自身に差し出しているかはさておき、彼の言葉である。
——こういうものがお好みかと。
心当たりはある。ありすぎる。ただ、彼に言われる道理はなかった。審神者は硬直し、真っ白になりそうな頭を稼働させた。
審神者に就任し早数年、ようやく新米を抜け出し中堅と呼べる頃合いだ。どこにでもいる社会人であった頃とはまた違う苦労に悩まされながらも、なんとかかんとかここまでやってきて、ついでにちゃっかり恋人——人ではないが——を作っちゃったりなんかもして。はじまりの一振りを含めた古株たちとは、もはや家族とも呼べる絆を結んでいる。
けれどまあ、彼女も年頃の女だ。彼女にはちょっと人には言えない秘密があった。特にその内容は、異性の姿をとった彼らには決して言えないことだった。
それが——メチャメチャ二次元オタクで目覚めたきっかけであるところの〝メイド〟という属性に刷り込みのように異常な執着を持っているとか、審神者になる前は夏と冬に海辺の会場でそういった本を買い漁りまくっていたとか、今も性癖の一致するエロ漫画家の有料ファンサイトに登録しまくりそういう絵や漫画を見漁る趣味があるだとか、そういうことなのだが。
昔は紙の本が主流だったそうだが、便利な現代ではガイドラインを守ればオンラインで作品の売り買いが可能である。そのお陰で審神者の秘密は彼女のプライベート電子端末と彼女の脳内に留まっていたはずだ。
それがなぜ、恋人である五月雨江に知られているのか。
可能性があるとすれば、ただ一つ。先日行われた冬の祭典で新刊のおまけとして制作された、神絵師のらくがきコピ本だ。
問い合わせてみたところ電子化やWEB公開の予定はなく、入手するには現地に赴くしかない。しかし審神者は本丸という箱庭に幽閉された身。数万人が集まるあの会場に護衛も付けずに向かえるはずがなかった。
彼女は泣く泣く同志の友人におつかいを頼んだ。そしてそれが、先日検閲を掻い潜りに掻い潜って、この本丸に届いたばかりだった。
新刊であるところの本編を踏まえた番外編的な6ページの短編漫画だが、ラフさの残るタッチには逆に作家の筆跡にフェチズムが残り、ファンである彼女としては大変満足のいくものだった。こだわりのフリルの丁寧さは損なわず、ラフだからこそ大胆に描かれた表情は丁寧にペン入れされたものよりも淫靡に見える。本編も大変よかったが、彼女としてはこちらが心により強く刺さった。
故に、枕元の棚にこっそりと置いていたのである。——実用的な意味で。
それをきっと、彼に見られてしまったのだろう。それで、このような誤解を招いた。
主人で恋人である審神者の私物を盗み見るのはどうなのだ、ということについては、目につく場所に置いていた審神者にも非があった。例の秘密以外は基本的にオープンな彼女は、特に心を許す五月雨江には私室の出入りを許可している。なんなら、「ちょっと部屋からあれとってきて」なんて使いっ走りまで頼むこともあった。
五月雨江は、まるで心からの親切心のような顔つきでメイド服を差し出している。それは、猫舌の彼女に少しぬるくなったお茶を用意したり、寒い夜に予め床に湯たんぽを仕込んでくれたりする気遣いに似ていた。
彼は恋人としても愛情深く、臣下としても忠臣深い男だ。それが裏目となって出ていた。
「えっと……」
「違いましたか」
「ち……がわなくは、ない。ないけど、これには誤解があって」
審神者は嘘でも、メイドが好きではないなどとは口に出来なかった。
メイドとは、性の目覚めと同時に築き上げた彼女の聖域である。それを偽るということは、自分の人生の半分を偽るということだ。高潔で高尚で尊いあの白いフリルを裏切るだなんて、彼女には出来ない。
ただ、確かに五月雨江との間には誤解があった。
彼女はメイド服が好きで、メイド服を着た女性が好きで、メイド服姿の女性がご主人様役の男性にあれやこれやと卑猥な目に遭わされるコンテンツを愛しているが、決して自分がそうなりたいわけではないのだ。ご主人様とメイドの秘め事を横から眺めていたいだけで、当事者になるだなんて、考えもしていなかった。
「あの、私の……その、枕元にあった本を読んだんだよね?」
「申し訳ありません。仕舞い忘れているのかと思い、片付けようとしたのですが」
「う、うん。ありがとう。それでね、まあややこしいんだけど、ああいうのが好きなのは否定しない……しないんだけどね? 私がメイド服を着たいかと言われると、そういうわけではなくて」
「そうなのですか」
「そうなのですよ。だから」
「……頭にはきっとこちらの衣裳が似合うと思い、選んだのですが。残念です」
五月雨江の顔がしゅんと沈む。それを見て、審神者は続きの言葉が言えなくなった。
まさかそんな、真剣にメイド服を選んでくれていただなんて。いや、この男は常に何に対しても真剣だ。主人に尽くすことにも、目の前の季語を愛でることにも一句詠むことにも。
それを蔑ろにするのは些か失礼が過ぎるのではないのか。五月雨江にも、このメイド服にも。審神者の頭を、そんな考えが擡げた。
「……まあ、着るくらいなら」
「着て下さるのですか」
「う、うん。着るだけ」
「ありがとうございます。部屋を出ていましょうか」
「えっ、いいよ。……でもちょっと恥ずかしいから、あっち向いててね」
五月雨江は指示通り、審神者に背を向けるようにして壁の方を向いた。
審神者は丁寧に畳まれたメイド服を広げ、改めて眺める。パニエがないのは残念だが、それでもシルエットに拘った全円スカートはふわりと広がった。モノトーン調のロングメイドで、ワンピースの上からエプロンを被る構造である。
審神者はワンピースのチャックの合間から足を差し入れ、袖に腕を通した。背中のチャックが一人で上まで上げられないからこれは後で手伝ってもらうとして、今度はエプロンの肩紐を肩にかけ、ウエストリボンを背中で結ぶ。くるりとその場で一回転してみると、フリルのついたスカートが美しく揺れた。
着てみたいと思ったことは幾度かあるものの、どうも神聖なものである気がして、自分自身で購入するには至らなかったのだ。性癖を暴かれたのは不本意だが、これはこれで怪我の功名というやつではないか。審神者の心はうきうきと浮ついていた。
「五月雨、もういいよ」
「失礼します」
五月雨江が審神者の方を振り返る。彼は目を見開いて、それからふっと微笑んだ。
「よくお似合いです」
「あ、ありがとう……?」
「ええ。このような服のことはあまり知らなかったのですが、私が贈った服に頭が身を包む、というのはいいものですね」
「そう……?」
五月雨江にはメイド服の良さはイマイチ理解出来なかったようだが、恋人が自分の選んだ服を着ることによる高揚感はあったようだ。審神者は彼に背中を向けてチャックを上げさせると、五月雨江の前でくるりと回ってみせる。
「さすがいい衣装だね。スカートの広がりがすごく綺麗」
「……なるほど」
「ん? なに、どうしたの?」
五月雨江の表情が変わって、審神者はきょとんとした顔で彼を見上げた。五月雨江は審神者に一歩近付くと、彼女肩を掴んで抱き寄せた。五月雨江の存外厚い胸板に彼女の身体がぶつかる。
「頭の嗜好を少しばかり理解できたかと」
「何の話? それより、もう着替えて——」
「いいえ、まだです」
審神者は、つい些細な憧れでこの衣装に袖を通したことを——五月雨江の頼みを了承したことを後悔した。
五月雨江の瞳は、太陽の下で光を受けながら美しい景色を愛でるものと全く違う色をしている。透き通る紫水のようなそれは、欲を滲ませ熱を孕んだ、彼女だけに注がれるものに姿を変えていた。
「五月雨——」
「五月雨、ではありません。ご主人様です」
その呼び方は別の刀を思い出すので遠慮したいのだが——と思いながらも、彼女は不思議な力によってその場に傅かされていた。
数年間の時を経て彼女の脳内に蓄積した卑猥な絵面がそうさせたのか、普段は全く見せない五月雨江の神気がそうさせたのか。何が原因だったのかは分からない。様々な要因が折り重なった末に、彼女をそうさせたのだろうか。
一種の催眠のように、審神者はぺたりと床に尻を付けていた。
「ご、ご主人様、申し訳ありません……」
自分は何を言っているのか、と思った。おかしなプレイに手を出している、と頭ではわかっている。けれどいま、審神者は頭ではなくただのメイドで、五月雨江は従順な犬でも従者でもなく彼女の主人だった。
冷たい瞳が審神者を見下ろす。日頃向けられることのない厳しい視線に、審神者は内側から何かいけないものが滲むのを感じた。
ぞくぞくと腰を這い上がる衝撃の正体を、彼女は知っている。けれど、このような形で湧き上がるとは、思いもしていなかった。
「はぁ、ふ……♡ んむ、」
「上手ですね、そう、……っ、そのまま舐めてください」
審神者はあろうことにも膝をついて、臣下である五月雨江の男性器に口淫していた。
最初に舌を這わせて清めてから、先端を吸うように口付け、それから裏筋を舐め上げる。硬度を増し立ち上がったそれを咥えるとあまりの質量に苦しく嘔吐いてしまいそうになったが、ご主人様の物に対してそんな失礼なことはできない。何とか苦しさを乗り越えて口に迎えると、舌と口内で包むようにして顔を上下して扱いた。
「奥まで咥えこんで下さい」
「んんっ、うぅっ……♡」
日頃は口淫をさせるどころか、こんな不躾な真似をすることなどあり得ない。五月雨江のらしくない振る舞いに、審神者は倒錯的な興奮を覚える。この男がこんな高慢な態度を取ることが出来るのだということへの驚きもあった。
指示されるがまま竿を深く咥え、審神者は動きを激しくする。不慣れながら彼が快感を得られる場所を舌で探すと、時折涼しげな顔から息が漏れた。
そこをすかさず責め立てると、五月雨江の呼吸が荒くなる。頭を撫でられると、上手くご主人様に奉仕が出来ていると褒められた気がして堪らない。彼に褒められることが最上級の喜びであるかのように、不思議と錯覚させられた。
「口に出します。全て飲みなさい」
らしくない口調と共に喉の奥に吐き出され、舌の上に苦みが広がった。量が多くねばついたそれを、審神者は何度にも分けて嚥下する。苦しげなあまり、目尻には涙が滲んだ。
普段の五月雨江であれば、快楽で彼女を追い詰めることはあれど、こんな苦しい思いをさせるはずがない。やめてくれと頼んでも、幾度も幾度も審神者を絶頂に押し上げて、果て切って崩れ落ちるまで彼女の身体を解すのが常だった。
そんな彼に命じられるまま精液を飲み込んでいると、主として、人としての尊厳が深く傷ついた。それがどうしようもなく——気持ちいい。
「すべて飲めましたか」
口を開いて口内が空になったことを見せると、「いい子ですね」と五月雨江の手が彼女の頭を乱雑に撫でる。審神者が日頃、彼に乞われてするように。
五月雨江はメイド服のエプロンのひもを掴んで彼女の上体を持ち上げた。
そのまま顔を寄せて口付けられ、舌同士が絡まる。上向きの苦しい姿勢で呼吸を奪われながらのキスに、審神者は陸にいながら溺れてしまいそうになった。
体を解放されると再び彼女は座り込む。見上げた五月雨江が手で唇を拭う姿が魅惑的で目が離せない。恋人を愛おしむ甘ったるさはそこになく、侮蔑にも近い冷ややかさがそこにはあった。
下腹部が熱い。まだ全く触れられていないというのに、審神者の体は精神的な興奮で追い詰められていた。自分に被虐趣味の気があっただなんて。そして、五月雨江に嗜虐の才能があっただなんて。
関連書籍を数百は読み漁った彼女は、この後の展開をよく知っていた。どう媚びて、どう欲しがり、どうご主人様から賜ればいいのかを。分かっているからこそ、そこまで堕ちてしまっていいものかと葛藤する。
しかしそれも、時間の問題だ。彼女の内なる雌の部分が疼き出して、彼女の意思に反して口を開いてしまくなる。
審神者は立ち上がると、羞恥に内腿を震わせながらスカートをたくし上げた。五月雨江の視線がそこに注がれているのを感じながら、下着を膝まで下げ、恥部をあらわにする。
「さ、五月雨ご主人様の……わたしの、中に……入れてほしいです……っ♡」
外気に触れたそこに寒気が走る。日頃から五月雨江に快感の得方を教え込まれたそこは、愛液で濡れそぼってひくひくと戦慄いていた。
五月雨江——ご主人様に、めちゃくちゃにされたい。審神者の頭の中はそれでいっぱいになって、見つめられているだけで次第に息が荒くなる。けれど、五月雨江の視線は依然として冷たいままだ。
「言葉が足りません。強請り方も知らない不出来な侍女を雇った覚えはありませんが、教育が必要ですか」
「も、申し訳ありませ、んんッ!?♡」
「やり直し。今度こそ正しく言えますね」
五月雨江の指が徐に彼女の恥丘を撫でた。愛液に濡れた指で雑に陰核をコリュコリュと虐められると、それだけで達してしまいそうになる。
審神者はがくがくと震える内股を御し、何とか姿勢を維持したまま、「五月雨、ご主人さまの……おちんちんで、私の中、いっぱいいっぱい、突いてください……っ♡」と、エロ漫画でしか見たことのないセリフを口にした。
まさか自分がこんなことを言う羽目になろうとは。そして、こんなにも興奮を覚えようとは。審神者は知ってはいけない悦楽を知り、足を踏み入れてはいけない場所へとずぶずぶ浸かっている気がしてならなかった。
だが、その先がどんな場所だとして、五月雨江という男は付いてくるに違いない。頭が行くなら地獄でもどこでもお供します、などと言って。その先が罪作りな快楽への道筋だとしても、彼は裏切る気配を見せなかった。
「あっ、あ♡ あ゛うぅっ♡」
審神者は壁に手をついて足を開き、背後から五月雨江に貫かれていた。メイド服に身を包んだまま、スカートを腰の上に捲られ、下半身だけ露にした姿だ。
俯いた彼女の視界は自室の床と、下着の引っ掛かった自分の足だけだった。ばちゅっ、ばちゅっ、と肌同士がぶつかり合って湿った音が鳴る。
奥を突かれる度に膝から崩れ落ちそうになるも、五月雨江にそれを許されていない。審神者は五月雨江の男根を扱く道具のように扱われながら、必死に快楽に耐えていた。
このような彼女に負担の大きい体勢で抱かれたことはなく、いつもと違う場所が当たることも審神者を追い詰める。五月雨江が今どんな顔をしているのかもわからず、それが不安と羞恥、そして興奮を煽った。
「ん゛っ、う♡ あぁっ♡ ごしゅじんさまの、っ、おくっ、気持ちいいですっ♡」
「煩い口ですね、隣の部屋に聞こえます」
「っ、ごめんなひゃ……っ♡」
五月雨江の手が審神者の顔に伸びて、彼女の口に指が二本差し入れられた。指は審神者の舌を摘んで、彼女は口をきけなくなってしまう。それどころか、ご主人様の指に歯を当てるわけにはいくまいと、大きく口を開く必要があった。
イイ処を突かれるたびに声が出そうになるのにそれもままならず、だらしなく開いた口からは唾液がだらだらと漏れる。次第に呼吸もうまく出来なくなって、視界がちかちかと白み始めた。
——苦しい、くるしい、つらい、でも耐えなきゃ、きもちい、きもちい、気持ちいい……!
中を乱暴に抉られ、頭の中もめちゃくちゃで、彼女は自分がもう何をしているのか分からなかった。幾度も夜を重ねたせいで、五月雨江は審神者の体の弱い処を知り尽くしている。それを的確に責めるものだから、彼女には抗う術がない。
「あ゛っ♡ あぁあ、あ、は、ッ、ッッ〜〜〜〜!!!♡♡」
審神者は気がつくと、自分でも気付かないうちに絶頂に達していた。膝が震え、膣内がきつく収縮する。手をついた壁に体重を預けて何とか耐えたが、痙攣で膝ががくんと抜けた。
一瞬意識が飛びかけたうちに、五月雨江も射精したらしい。ずるりと男性器の抜けた膣から、熱いものが溢れ内股を伝う。床に膝をつきそうになる前に、何かが彼女の身体を支えた。
「っ、あ゛ーっ、はっ♡ ッ、はぁっ、あ……♡」
「頭、大丈夫ですか」
「ふぁ、ごめんなさ、ごしゅじんさま……♡」
「少しやりすぎました。……頭、私の目を見てください」
「ふぇ♡ あ……っ、さみ、さみだれ……」
「ええ、頭の五月雨です」
審神者は気が付くと、布団の上に座った五月雨江に抱きかかえられていた。ぼんやりとしていた思考が明瞭になり、次第に意識がはっきりする。
ちゅ、ちゅ、と優しい口付けを顔に降らせる五月雨江は、彼女の知る優しい瞳をしている。仮にも神と人、ごっこ遊びといえど入り込みすぎるのはよくなかったか、と冷静になった今、審神者の心臓はバクバクと騒ぎだしていた。
五月雨江が物分かり良くよく彼女に懐いた忠犬だったから良かったものの、自分はかなり危ない橋を渡っていたのでは。相手が違えば、もっとひどい結果に——人としての魂の形を保てなくなっていたかもしれない。そう思うと、背筋がぞっと凍った。
「頭にひどい真似をしてしまいました。申し訳ございません」
「ひどい真似……いや、あれは……」
審神者はさっきまでのふたりの言動を思い出し、顔を赤くした。
どちらかと言えば、最初に乗り気になったのは自分からではなかったか。いやそれも、彼の策のうち? いつから自分が〝ああ〟なったのか分からず、審神者は混乱する。
しかしそれをわざわざ口に出すのも屈辱的で、審神者は「ダイジョウブ……」と片言で返した。「許してくださいますか」と寄せられた頭を撫でれば、五月雨江は嬉しそうに擦り寄った。
「ま、まあその、たまにはいいんじゃない」
「お気に召していただけましたか」
「気に入ったっていうか……」
良かったか悪かったかと聞かれれば、良かった。大いに。ただ、良すぎてしまって大変だっただけで。
審神者が言葉を濁すと、五月雨江はちゅっと唇に口付けて「またしましょうね」と言う。彼女はそれに肯定も否定もしなかったが、近いうちにまたこの衣装に袖を通すことになるだろうな、と思っていた。
五月雨江の手が審神者を抱き起す。彼は彼女の背中に手を回すと、エプロンのリボンを解いてチャックを下した。するすると手際良くメイド服を脱がされ、審神者はきょとんと呆けた。
「え、なに」
「なに、とは?」
「いやその、今終わったのでは」
「ええ。ですから、ご主人様とめいどさんごっこ、はおしまいです」
促されるままに腰を上げ、ついでにブラのホックも外され、審神者はあっという間に素っ裸になってしまった。五月雨江も律儀に服を脱ぎ始め、浴衣の上を開ける。
「この先は、五月雨江を可愛がってください」
押し倒されてぱたん、と背中を敷き布団に付けながら、審神者は五月雨江を見上げる。その顔はよく知ったかたちをしていたが、僅かな悋気と嗜虐心が滲んでいた。
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