の年に一回の帰省には、始まりの一振りが護衛として付き添うのが例年の慣わしであった。 しかし現在、彼は修行の旅に出ている。が代理を募ると、本丸に顕現している刀の半分以上が立候補した。流石に全員を連れて行くわけにもいかず、その中から一振り選ぶのも[[rb:恣意的 > しいてき]]で憚られた。 かくなる上はと開催されたのが、『第一回 本丸真剣かくれんぼ大会』である。最後まで見つからなかった一振りを帰省に付き添わせるとが言えば、彼らは本気でかくれんぼに興じた。 最初から見るからに有利不利が明らかなこの遊びを、護衛の選定に選んだのにも理由がある。 建前としては、現代に溶け込むためには隠蔽能力が高くなくてはならない。人でないことを悟られるようでは、とても現代へ連れてはいけないからだ。 そして真の理由は、大学受験を目前に控えた末の妹を思ってのことだった。冬休み真っ只中、彼女は最後の追い込みをかけていることだろう。何度も顔を合わせている始まりの一振りはともかく、突然見知らぬツラの良い男を連れ込んだばかりに勉強が疎かになってはかなわない。 この種目ならおそらく、最後に残るのは短刀だろう。容姿の幼い彼らなら妹の心を奪うことはあるまいという見立てであった。 そして、その予想を大きく外し、護衛の任を勝ち取ったのが五月雨江という刀である。 勝手に賭けていた博多藤四郎が「大穴ばい!」と叫んでいたように、彼が勝ち残ることはにとっても想定外だった。確かに普段から忍びがちな刀だが、短刀や脇差相手にここまでやり過ごすとは思ってもみなかったのである。 たとえ結果が思っていたのとは違っても、約束を反故にするわけにはいかない。その努力を認めざるを得ず、は五月雨江を伴って帰省することになった。 「いい? うちの妹、今人生かかってるから。絶対邪魔しないでね」 事情を説明してそう念を押すと、五月雨江はとびきり整った顔ととっても耳触りのいい声で「はい。頭のご家族の邪魔は絶対に致しません」と言ったので、は頭を抱えた。先行きが不安だ。こんな男に誑かされて、志望校に落ちてしまったら目も当てられない。 せめてもの対策として、は篭手切江に「一目惚れなんてできないくらいメチャメチャダサくしてくれない? この男前を」と託した。 篭手切江は「お任せください」とメガネのブリッジを上げて、あれこれとどこに売っているんだと尋ねたくなるような服を次々と五月雨江に着せたが、どれだけ手を尽くしても『イケメンは何着てもイケメン』を体現するばかりであった。 どのジャンルの不格好さを当てがっても、端正な顔立ちと鍛えられた立派な体躯はそれを着こなしてしまう。新手のオシャレスタイルを確立するので個性的な服装の美形にしかならず、[[rb:却 > かえ]]って印象に残りかねない結果となった。 篭手切江とがうんうん唸りながら五月雨江の重要文化財顔を凝視していると、彼は「この顔が駄目ならいっそ焼きましょうか。手入れで元に戻りますので」なんて恐ろしいことを言い始めた。 「や、やめてよ! っていうかそこまでするなら流石に別の人を……」 「頭。——約束を違えるおつもりですか」 「うっ、うそうそ! 冗談だから怖い顔しないで〜……、ねっ!」 綺麗な着せ替え人形だった五月雨江が突然神様染みた顔付きで凄むので、は背筋を震わせた。 口約束とはいえ、相手は神様である。破ったらどんなバチが当たるか分かったものではない。 彼らはに従順だが、神様であり、その上下関係を形作るのは持ち主と所有物である、という一点だけだ。薄氷のような[[rb:縁 > よすが]]は、その気になれば簡単に覆る。 彼が今着ているのが美少女アニメのフルグラフィックTシャツでなければ、恐怖のあまり粗相を催していたかもしれなかった。 「そこまで来たいもんかな? 何にもないよ、うち」 「それはそうだと思いますよ」 口を挟んだのは、通販サイトで折り返しがチェック生地のチノパンを眺めていた篭手切江である。そういえば彼も護衛に立候補してくれていたんだった、とは思い出した。 「篭手切はなんで来たかったの? やっぱアイドルショップとか見たかった?」 「それもありますが、主の生まれ故郷は私たちにとっても特別な場所ですから」 五月雨江が同意するように頷く。「そういうものかなぁ」とが呟けば、二振りが声を重ねて「そういうものです」と言ったので、は笑った。 「一周回って黒一色はどうでしょう」 「いや、一周回ってないよ。ここがランウェイの中心だよ」 「五月雨さんは本当に黒色がよく似合いますね」 「ブルベ冬なのかな」 「季語ですか?」 「五月雨の顔が季語だよ、もはや」 最終的に、綺麗な顔を隠している刀代表・山姥切国広を参考にパーカーを着せ、テレビに映る容疑者よろしく目深にフードを被せて帰省に挑んだ。当たり前のように末の妹は恋に落ちたが、幸い志望校には合格したとのことである。